オキナワキノボリトカゲはアガマ科に属する半樹上棲のトカゲで、琉球列島の沖縄諸島と奄美諸島のみに在来分布するが、最近になって宮崎県の日南市と鹿児島県の指宿市で外来性の繁殖個体群が確認された。
これらオキナワキノボリトカゲ外来個体群は、沖縄諸島や奄美諸島の個体群と同様、昆虫をはじめとする小動物を捕食していると思われ、事実、日南市ではアリからセミまでさまざまな無脊椎動物の捕食が確認されている。
九州本土に生息する在来のトカゲ類7種(ニホントカゲ、ニホンカナヘビ、ヤクヤモリ、ミナミヤモリ、タワヤモリ、ニシヤモリ、ニホンヤモリ)にはオキナワキノボリトカゲのように日中、地上と樹上の両方で視覚的に獲物を探す種はいない。したがって九州在来の潜在的餌動物の中にはオキナワキノボリトカゲが広がった場合、その捕食圧の影響を強く受けるものが少なくないこと、したがってオキナワキノボリトカゲの分布拡大が在来の生態系・生物多様性に少なからず悪影響を及ぼすことが強く懸念される。
現在のところオキナワキノボリトカゲの外来個体群の定着範囲は日南市においても指宿市においても市街地に隣接した比較的狭い範囲の二次林と周辺植生に限られているが、これら生息地内での生息密度は相当に高く、近い将来、市街地や河川を挟んで隣接する森林の連続帯に到達し、急激に分布を拡大する恐れがある。
日南市の行政は2008年度よりオキナワキノボリトカゲ外来個体群の現状を把握するべく、専門家の協力の下で緊急調査を行ってきており、指宿市もまた同様の調査について検討を開始している。しかしいずれにおいても予算上の制約は大きく、十分な調査や必要に応じた効果的な対策の実施は財政的に困難である。
そもそもこうした外来種問題でリスクを被る在来生態系、生物多様性の保全・存続は、一部の市町村のみの責任ではなく、より上位の行政が責任を担保すべきものである。
以上の現状に鑑み、日本爬虫両棲類学会は貴職に対し以下のことを強く要望する。
本要望書の他の送付先は以下の通りです。